
「親の介護が現実味を帯びてきたけど、お金は一体いくら必要なんだろう?」
「自分の老後を考えると、今の貯蓄で介護費用まで足りるかな?」
40代・50代になると、多くの方がこうしたお金の悩みに直面します。見て見ぬふりはできないけれど何から手をつければ良いか分からない、というのが本音ではないでしょうか。
本記事では、公的データに基づいた介護費用のリアルな平均額から、貯蓄の目標額を計算する方法、そしてNISAやiDeCoを活用した賢いお金の準備方法までをわかりやすく解説します。
まずは正しい知識を身につけ、将来のお金の不安を計画的な安心へと変えていきましょう。

1:介護費用に備える貯蓄の目安は500万円!ただし状況次第で1,000万円以上の場合も
まず知っておきたいのが、介護費用に備える貯蓄の目安です。
結論からいうと、目安のひとつが「500万円」です。また、人によっては1,000万円以上の準備が必要になることもあります。
ここでは、その具体的な理由と内訳を一つひとつ見ていきましょう。
1-1:なぜ500万円が目安になるのか?平均データから解説
この500万円という金額は、介護が始まる際にかかる「一時的な費用」と、毎月継続的に発生する「月々の費用」を合算して計算します。
生命保険文化センターの調査(2024年度)によると、住宅の改修や介護用ベッドの購入といった一時的な費用の平均が約47万円です。そして、月々の介護費用は平均で約9万円、介護が続く期間は平均で約4年7ヶ月(55ヶ月)と報告されています。

これらを基に総額を計算すると約542万円となり、これが「介護の貯蓄は500万円を目安に」と言われる直接的な理由です。まずは、この金額をご自身の計画を立てる目安のひとつとしておくとよいでしょう。
1-2:親の状況や希望によっては1,000万円以上の準備が必要
平均的な費用が約500万円である一方、いくつかの条件が重なると準備すべき資金は1,000万円を大きく超える場合があります。
費用が変動する主な要因は、「入居する施設の種類」「介護期間の長さ」「親の資産状況」の3つです。
入居する施設の種類
例えば民間の介護付有料老人ホームの相場は、月額14.5万円〜29.8万円、入居一時金(平均397.2万円)が必要です。
民間の介護付有料老人ホームを選んだ場合
- 月額利用料:25万円
- 入居一時金:400万円
- 平均期間:4年7ヶ月(55ヶ月)
この施設に入居した場合、総額は1,700万円を超えます。
介護期間の長さ
介護期間が平均より長引く可能性も考慮すべきです。調査では約14.8%の方が10年以上介護を続けています。
もし月9万円の費用で介護が10年間続けば、それだけで総額は1,000万円を超えてしまうのです。
親の資産状況
介護費用は、基本的にご本人の年金や貯蓄で支払います。しかし、もし親の資産だけで月々の費用を賄えない場合、その不足分はご家族が負担するケースが多いです。
このように、希望する介護の形によって準備すべき金額は大きく変わります。平均額だけを参考にせず、ご自身の状況に合わせた計画を立てることが大切です。
2:介護にかかる費用のリアルな平均額と期間
目安となる500万円という金額の内訳を、もう少し詳しく見ていきましょう。
介護費用の総額の多くは、「月々の費用」と「介護期間」のかけ算で決まります。ここでは、それぞれの平均的な実態と、費用が大きく変わる「在宅」と「施設」の違いについて、具体的なデータを基に解説します。
2-1:月々の介護費用の平均は約9万円
介護が始まると毎月かかり続ける費用の平均は、生命保険文化センターの調査(2024年度)で約9万円と報告されています。
この金額には、デイサービスなどを利用した際の自己負担額(原則1〜3割)のほかに、おむつ代や医療費といった公的保険ではカバーされない実費も含まれています。
また、介護の必要度合いを示す「要介護度」によっても費用は変動します。

同センターの調査では、月々の費用は要介護1で平均5.8万円です。要介護度が上がるにつれて増加し、最も費用がかかる要介護4では平均12.4万円。このように、介護が重度化するほど経済的な負担も大きくなる傾向があります。
2-2:介護期間の平均は約5年
介護が続く期間は、平均で約4年7ヶ月(約55ヶ月)です。しかし、資金計画を立てるうえでは、平均より長くなる可能性も考えておく必要があります。
なぜなら、総費用は「月々の費用 × 期間」で決まるため、期間の見積もりが甘いと、将来資金が足りなくなるという深刻な事態に陥る可能性があるからです。実際のデータを見ると、介護期間が10年以上に及ぶケースは全体の約14.8%、つまり「約7人に1人」いるのが実情です。

平均値だけを見て「5年分あれば大丈夫」と考えるのではなく、少し余裕を持った期間で資金計画を立てることが、将来の安心につながります。
2-3:施設介護は在宅の2.5倍以上?総額の差をシミュレーション
介護の場所を「自宅」にするか「施設」にするかは、費用に大きな影響を与える選択です。
調査によると、月額費用の平均は在宅介護が約5.3万円であるのに対し、施設介護は約13.8万円と、2.5倍以上の差があるという結果が出ています。
介護を行った場所別介護費用(月額)

この差が生まれる主な理由は、施設で生活するための家賃(居住費)や食費が、公的な介護保険の適用外で全額自己負担となるためです。さらに、民間の施設の場合は、入居時に数百万円の「入居一時金」が必要になることも珍しくありません。
一方で、在宅介護にも注意点はあります。介護のために水道光熱費が増えたり、ご家族が働き方を変えることによる収入減といった、数字に直接表れにくい「見えないコスト」が発生する可能性も考慮しなければなりません。
それぞれの費用とメリット・デメリットを理解したうえで、ご家族にとって最適な形を選ぶことが重要です。
3:あなたの場合はいくら?介護の貯蓄目標を設定する3ステップ
介護費用の全体像が見えてきたところで、いよいよ「ご自身の場合はいくら必要か」という具体的な目標額を計算していきます。
漠然とした不安を解消するため、次の3つのステップに沿って一緒にシミュレーションしてみましょう。
ステップ1:親の希望(在宅or施設)や資産状況を把握する
ステップ2:必要な介護費用を大まかにシミュレーションする
ステップ3:公的年金や親の貯蓄で不足する額を算出する
3-1:親の希望(在宅or施設)や資産状況を把握する
最初のステップは、介護の当事者である親の意向と、現在の経済状況を正確に把握することです。
希望する介護の場所(在宅か施設か)によって必要な費用は大きく変わります。また、親の資産でどれくらい介護費用を賄えるかを確認しておきましょう。
親に確認しておきたいこと
・「介護が必要になったら、住み慣れた家で過ごしたいか」
・「介護には平均500万円ほどかかるらしいけど、どれくらい準備できるか?」
少しデリケートな話題ですが、将来のトラブルを避け、親子双方にとって最善の選択をするために、この事前の情報共有は非常に重要です。
3-2:必要な介護費用を大まかにシミュレーションする
ステップ1の情報をもとに、介護費用の総額をシミュレーションしてみましょう。計算式は以下の通りです。
計算式:(月額費用 × 介護期間) + 初期費用 = 総費用
ここでは具体的なモデルケースを2つ用意しました。ご自身の状況と照らし合わせながら、計算の流れを確認してみてください。
【ケース1】在宅介護で、介護期間が長期化した場合
<前提条件>
月額費用:8万円
介護期間(長期リスクを考慮):10年(120ヶ月)
初期費用(住宅改修など):100万円
<シミュレーション結果>
(8万円 × 120ヶ月) + 100万円 = 1,060万円
【ケース2】民間の介護施設に、平均的な期間入居した場合
<前提条件>
月額費用:20万円
介護期間:5年(60ヶ月)
入居一時金:300万円
<シミュレーション結果>
(20万円 × 60ヶ月) + 300万円 = 1,500万円
このように、希望する介護の形によって必要な総額が大きく変わることが分かります。まずはご自身の状況に近い形で一度計算してみることをおすすめします。
3-3:公的年金や親の貯蓄で不足する額を算出する
最後に、ステップ2で計算した「必要な介護費用総額」から、親の資産で賄える金額を差し引きます。
親が用意できる金額は、「(年金の手取り月額 × 想定介護期間) + 親の預貯金」で計算します。ここで大切なのは、年金を税金などが引かれた後の「手取り額」(額面の85〜90%が目安)で計算すること。
この3ステップを踏むことで、「お金がかかりそうで不安」という漠然とした状態から、「我が家は〇〇万円を目標に準備しよう」という明確な目標ができるのです。
4:介護費用を「貯蓄」で効率的に準備するための4つの方法
ご家庭で準備すべき目標額が明確になったら、次はいよいよ「どうやってそのお金を準備するか」を見ていきましょう。
普通預金に預けておくだけでなく、税金の優遇などを上手に活用することで、より効率的に資産を作れます。ここでは、代表的な4つの方法を紹介します。
4-1:NISAで非課税の恩恵を受けながら準備する
NISAの最大の魅力は、投資で得た利益(運用益)に通常かかる約20%の税金が非課税になる点です。
2024年から始まった新NISAは、制度自体がいつでも始められるようになり、非課税で商品を保有できる期間も無期限になりました。一度商品を売却しても、その分の非課税枠が翌年以降に復活して再利用できるため、柔軟な資金計画が可能です。
ただし、NISAはあくまで投資です。元本が保証されているわけではない点に注意しましょう。
4-2:iDeCoで税金の負担を減らしながら老後資金を準備する
iDeCoは、NISA以上に強力な税金の優遇措置がある私的年金制度です。
最大の特長は、毎月の掛金が全額「所得控除」の対象になることです。これにより、その年の所得税や翌年の住民税が直接安くなるという大きなメリットがあります。もちろん、NISAと同じように運用して得た利益は非課税です。
しかし、iDeCoには「原則60歳まで引き出せない」というルールがあります。このため、iDeCoは「親の介護費用」を直接準備するためではなく、「自分自身の老後資金」を盤石にするための制度と位置づけるのが適切です。
4-3:計画的に貯蓄するのが苦手なら「個人年金保険」も選択肢に
投資には少し抵抗がある方や、計画的に貯蓄するのが苦手という方には、民間の保険会社が提供する「個人年金保険」も選択肢のひとつになります。
一度契約すれば毎月決まった保険料が自動で引き落とされるため、半強制的に貯蓄の仕組みを作れるのが大きなメリットです。また、契約時に将来受け取れる金額が決まっている商品が多く、元本割れのリスクを避けたい安定志向の方に向いています。
ただし、現在の低い金利状況では、お金が大きく増えることは期待できません。また、途中で解約すると元本割れしてしまう可能性が高い点には注意が必要です。
4-4:何から始めるべきか迷ったら専門家(FP)に相談する
ここまでさまざまな情報をお伝えしてきました。もし「情報が多すぎて何から手をつければ良いか分からない」と感じた方は、お金の専門家であるFPに相談することをおすすめします。
介護費用の準備は、公的な制度から金融商品の知識まで、幅広い分野の知識が必要になる複雑な課題です。
FPに相談すると、ご家庭の収入や資産状況を客観的に分析し、NISAやiDeCoをどのように組み合わせるのが最適か、あなただけの具体的な実行プランを一緒に考えてくれます。専門家の力を借りることで、より安心して、そして着実に介護への備えを進められるのです。
5:まとめ
今回は、介護費用に備える貯蓄の考え方から具体的な準備方法までを解説しました。
介護費用のひとつの目安は1人あたり500万円です。しかし、希望する介護の形によって必要額は1,000万円以上に及ぶこともあります。
大切なのは、本記事で紹介した3つのステップを参考に、ご自身の家庭に合った目標額を具体的に把握することです。そして、NISAやiDeCoなどを活用し、計画的に準備を始めることが将来の安心につながります。
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