
「年金の繰り下げは”損”だと聞いたのですが、それは本当ですか?」
年金を繰り下げすると、ひと月あたり0.7%増額、最大5年間、70歳まで繰り下げることが可能です。
すると、受け取る年金は最大42%増額するため、長生きすれば”得”だと思われることもあります。
しかし、年金の繰り下げは”損”と言える理由や、注意点も存在します。
この記事では、年金の繰り下げが損と言われる理由や、年金の繰り下げを選択した場合の注意点などを解説します。
この記事で分かること!
- 年金の繰り下げが損と言われる理由
- 繰り下げした際の損益分岐点
- 年金繰り下げをした際のデメリット

1:年金の繰り下げが損と言われる3つの理由
以下は、年金の繰り下げが損と言われる3つの理由です。
1、損益分岐点までの道のりが長い
2、途中で亡くなると増額分を受け取れない
3、年金受給額が増えると税金・社会保険料が増える
それぞれ、詳しく解説していきます。
1−1:損益分岐点まで長い道のり
理由の1つ目は、『損益分岐点まで長い道のり』です
例えば、65歳開始と70歳開始を比較すると、受給額は42%増える一方、元を取るには81歳を超えることが必要です(損益分岐点)。
平均寿命
2024(令和6)年の日本人の平均寿命は、男性が81.09歳、女性が87.13歳でした。
参照:厚生労働省|簡易生命表(令和6年)
以下は、年金受給額を月額15,0万円とした場合の、受給開始年齢と増額率、損益分岐点が何歳なのかを表した表です。

図にすると以下のようになります。

年金繰り下げをして得したい場合、”長生きすること”が前提となります。
1−2:途中で亡くなると増額分を受け取れない
理由の2つ目は「途中で亡くなると増額分を受け取れない」です。
例えば、年金月額が15万円の方が70歳まで繰下げ受給をして、75歳で亡くなってしまった場合、受け取った年金総額は1278万円です。
(15万円×増額率142%×12ヶ月×5年間 = 1278万円)
繰下げ受給せず、65歳から受給を開始し、75歳で亡くなってしまった場合の年金受取総額は1800万円です。
早くに亡くなってしまった場合、繰下げ受給はした分だけ損、ということになりかねません。
1−3:年金受給額が増えると税金・社会保険料が増える
理由の3つ目は「年金受給額が増えると税金・社会保険料が増える」です。
つまり、年金の”手取りが減る”ということを指します。
年金から天引きされる税金・社会保険料には以下のようなものがあります。
- 国民健康保険料(75歳未満)または後期高齢者医療保険料(75歳以上)
- 介護保険料
- 所得税
- 住民税
年金月額15万円の場合、『65歳受給開始』と『70歳受給開始』の場合の手取りを比較してみましょう。
65歳から受給開始
年金月額:15万円
税金・社会保険料:1万5千円
手取り:13万5千円
70歳から受給開始
年金月額:21.3万円
税金・社会保険料:3万円
手取り:18万3千円
※税金・社会保険料は概算値
年金受給額が増える代わりに、税金・社会保険料が増えてしまいます。
したがって「年金額が増える=そのまま手取りが増える」とは限らないのです。
2:年金繰り下げを行った際の3つデメリット
年金の繰り下げを行った場合、以下の3つのデメリットが発生します。
1、遺族年金は増額されない
2、加給年金や振替加算は繰り下げできず、支給されない
3、在職老齢年金で減額された分は繰り下げても取り戻せない
一つずつ見ていきましょう
2−1:遺族年金は増額されない(厚生年金のみ)
年金を繰り下げても、遺族厚生年金は増額されないため、万が一のときに家族の受け取る額は変わりません。
遺族厚生年金は、65歳時点の老齢厚生年金額を基準に計算される仕組みとなり、本人が繰り下げを選んで増額した分は、遺族年金には反映されません。
例えば、夫が70歳まで繰り下げて年金を増額しようと考えたとします。
しかし、その間に亡くなってしまうと、妻が受け取る遺族厚生年金は「65歳時点の額」のままです。
しかも、繰り下げ中に生活費として取り崩していた本人の貯蓄は減ってしまい、残された家族の経済的余裕も小さくなります。
したがって、家族の生活を考える場合には、繰り下げによる増額分は遺族には引き継がれないという点を理解しておくことが重要です。
2−2:加給年金、振替加算は繰り下げられない(厚生年金のみ)
年金を繰り下げると、本来もらえる「加給年金」や「振替加算」が受け取れなくなり、大きな損になる可能性があります。
加給年金とは
生計を維持している65歳未満の配偶者、または18歳以下の子がいるときなどに、老齢厚生年金の受給者が受給することができる、言わば家族手当のようなもの。
振替加算とは
加給年金額の対象者になっている妻(夫)が65歳になると、それまで夫(妻)に支給されていた加給年金額が打ち切られます。このとき妻(夫)が老齢基礎年金を受けられる場合には、一定の基準により妻(夫)自身の老齢基礎年金の額に加算がされます。
加給年金や配偶者加給年金額の特別加算、振替加算は、老齢厚生年金・老齢基礎年金の受給開始と同時に支給される仕組みです。
しかし、年金を繰り下げると、これらの加算分は繰り下げの対象にならず、繰り下げ分の年金と一緒に加算も受け取れなくなります。
例えば、加給年金と振替加算がある場合、年金の繰下げを選択してしまうと、以下の金額を受け取れなくなる可能性があります。
2026年に65歳を迎える夫の例(昭和36年生まれ)
妻:2026年に62歳を迎える(昭和39年生まれ)
子ども:なし
加給年金額(+特別加算)415,900円/年 (※令和7年4月から)
振替加算額:16,033円/年
合計:431,933円/年
年金の繰下げ受給を選択してしまうと、受け取れるはずだった約43万円が受け取れなくなってしまいます。
年金の繰り下げは、受給額を増やせるメリットがある一方で、加給年金や振替加算が消失するという大きなデメリットがあるため、慎重に判断する必要があります。
2−3:在職老齢年金で減額された分は戻らない(厚生年金のみ)
老齢厚生年金を繰り下げても、在職老齢年金で支給停止になった部分は、増額の対象にはなりません。
なぜなら、繰り下げによる増額は、あくまで「実際に支給された年金額」に対してのみ適用され、支給停止された金額には増額が反映されないためです。
たとえば、70歳まで5年間繰り下げて、さらに70歳まで働いて賃金を得ていたとします。
月収と年金の合計が47万円を超えると、その超えた分の半分が在職老齢年金として支給停止されてしまいます。
この「支給停止された部分」は、繰り下げ増額の計算に含まれません。
そのため、増額の対象となるのは、支給停止を差し引いた後の年金額だけです。
また、一度支給停止された部分は、繰り下げ後にまとめて戻ることもありません。
一方で、65歳以降の賃金と年金の合計が47万円以下であれば支給停止は発生しないため、
年金の全額が増額の対象になります。
つまり、在職老齢年金の支給停止がある状態で繰り下げをしても、停止された分は増額されません。
※なお、現在この47万円の基準額は見直しが進められており、今後引き上げられる可能性があります。
在職老齢年金制度の見直しについて
現在、65歳以上の年金受給者が厚生年金保険に加入し、賃金と年金の合計が月50万円を超えると、超過分の半額が支給停止となります。 この基準額は、2026年4月から月62万円に引き上げられる予定です。
年金の繰り上げも損となりやすい
年金の繰り上げも損となりやすいため、注意が必要です。
以下はその主な理由です。
・繰り上げ受給すると、毎月の年金額が減額される(1か月繰り上げで0.5~0.4%減額)
・損益分岐点が高齢になりやすく、元が取れるまで時間がかかる
・加給年金や振替加算がもらえなくなる場合がある
・在職中に受給すると、在職老齢年金で減額されることも
3:まとめ
年金の繰り下げは手取りが増えると見えがちですが、デメリットも多く存在します。
年金の受給開始時期を考える際は、寿命・健康・家族構成・手取り額・生活資金の余裕などを総合的に判断することが重要です。
4:マネースクール101の無料個別相談
「お金のことを相談してみたいけど、誰に相談してよいかわからない…」
「自分にあった貯蓄や資産運用の方法が知りたい」
そんな方は、まずは無料でFP(ファイナンシャルプランナー)に相談をしてみませんか?
ご相談は来店またはオンラインで全国どこからでも可能です。
こんなことが相談できます
- 老後資金の貯め方
- 家計の見直し、ライフプランの作成
- 住宅購入の予算、住宅ローンの選び方
- NISA、iDeCoの始め方
- 保険の加入、見直し
など
お金に関することをわかりやすく説明しますので、初心者の方もお気軽にご相談ください。
無料相談をご希望の方はこちらから!
