
「結婚後の世帯主は、なんとなく夫にしておくべき?」
「収入が多い方が世帯主になるのが普通?」
といった疑問を抱えていませんか。
年末調整や住民票の手続きで必ず出てくる「世帯主」という言葉。実は、その意味を正しく理解しないまま決めてしまうと、もらえるはずの手当を逃してしまうなど、思わぬ損につながる可能性もあるのです。
この記事では、「世帯主」の言葉の意味を始め、結婚・共働き夫婦が世帯主を決める際のポイントや、世帯主の手続きなどを詳しく解説しています。
世帯主を夫婦のどちらにするか悩んでいる方の参考になれば幸いです。
世帯主とは?結婚・共働き夫婦が知るべき基本を解説
「そもそも世帯主って何をする人?」といった疑問が浮かんでいませんか?実は、この「世帯主」という言葉、多くの人がその本当の意味を誤解しがちです。
ここでは、まず知っておくべき世帯主の基本を解説します。世帯主の具体的な役割を知るだけで、「どちらが世帯主になるべきか」という悩みが解消されるはずです。
世帯主とは「世帯の代表者」
結論からお伝えすると、世帯主は住民票上の「世帯の代表者」という役割を示すだけで、税金の計算で使われる「扶養」とは全くの別物です。
世帯主はあくまで行政手続き上の役割であり、所得税や住民税の金額は個人の収入に基づいて決まります。
扶養は、年収が一定以下の家族がいる場合に税金の負担が軽くなる制度ですが、共働きで夫婦それぞれに収入がある場合、多くはお互いの扶養に入りません。そのため、どちらを世帯主にするかで税金が大きく変わることはないのです。
世帯主の役割は「行政上の手続き」
では、世帯主の具体的な役割は何かというと、主に行政からの通知を受け取る「窓口」であり、実生活に与える影響はごくわずかです。
具体的には、以下のような役割が中心となります。
- 選挙の投票所入場券の宛名になる
- 国民健康保険に関する書類の宛名になる
- 年末調整の書類に氏名を記入する欄がある
このように、世帯主は行政上の「連絡係」のような役割がほとんどです。そのため、夫婦のどちらが世帯主になっても、日常生活で不便を感じるシーンはまずないと考えてよいでしょう。
結婚・共働き夫婦が世帯主を決める際の3つのポイント
共働き夫婦が世帯主を選ぶポイントは、実はとてもシンプルです。
注目するポイントは、「税金・社会保険」と「会社の福利厚生」です。ほとんどの場合は気にする必要はありませんが、ある一つの例外だけはしっかりと確認しておきましょう。
ポイント1:世帯主のメリット・デメリットは行政上の手続き以外ほぼない
世帯主であることのメリット・デメリットをまとめると、以下のようになります。
メリット
- 世帯の代表として説明しやすい
- 一部手続きがスムーズな場合がある
デメリット
- 行政からの通知物の宛名になる
- 書類に「世帯主」と書く機会が増える
このように、世帯主であること自体が家計に直接影響を与えることは、多くの場合ありません。どちらが世帯主になっても夫婦の生活が大きく変わるわけではないので、過度に心配する必要はないのです。
ポイント2:【原則】税金(所得税・住民税)や社会保険料に影響はない
共働き夫婦の場合、世帯主が誰であっても税金や社会保険料の金額は変わりません。
所得税・住民税
個人の1年間の所得(収入から経費などを引いたもの)に対して課税されます。
社会保険料(健康保険・厚生年金)
会社員の場合、毎月の給与(標準報酬月額)を基に保険料が計算されます。
夫婦がお互いの勤務先の社会保険に加入し、扶養に入っていないのであれば、世帯主を夫と妻のどちらにしても、各自が給与から天引きされる金額は全く同じです。「収入が高い夫が世帯主にならないと損をする」というのは、誤解なので安心してください。
ポイント3:【例外】会社の「住宅手当・家族手当」の支給条件をチェックする
税金や社会保険に影響がない一方で、唯一、金銭的な差が出る可能性があるのが、会社の福利厚生である「住宅手当(家賃補助)」や「家族手当」です。
これは法律で定められた制度ではなく、会社が独自にルールを決めているため、支給条件に注意が必要です。特に、以下のような条件が就業規則に書かれていないか、必ず確認しましょう。
【チェックポイント】
- 住宅手当:「世帯主であること」が支給の条件になっていないか?
- 家族手当:「世帯主であること」が支給の条件になっていないか?
例えば、夫の会社は「世帯主でなくても住宅手当が月3万円出る」のに対し、妻の会社は「世帯主であれば月5万円の住宅手当が出る」というケース。この場合、妻を世帯主にしないと、受け取れる手当に年間で24万円もの差が生じてしまいます。
まずは夫婦それぞれの勤務先の就業規則を確認し、もし不明な点があれば人事部や総務部に問い合わせるのが確実です。
【要注意】共働き夫婦が「世帯分離」を選ぶ際の3つのデメリット
最近では、夫婦が同じ住所に住みながら、住民票の世帯を分ける「世帯分離」という選択肢を選ぶケースもまれにあります。
しかし、共働き夫婦が世帯分離を選ぶことは、金銭的なデメリットや手続き上の手間が増えるリスクがあり、基本的にはおすすめできません。
ここでは、世帯分離を選んで後悔しないためのデメリットを3つ解説します。
国民健康保険料の負担が増える可能性がある
まず注意したいのが、国民健康保険料の負担です。
夫婦ともに会社員の場合、社会保険に加入しているので関係はありません。一方で、自営業やフリーランスで国民健康保険に加入している場合、世帯分離によって保険料が高くなる可能性があるのです。
国民健康保険料の計算方法は、世帯ごとにかかる「平等割」という項目を設けている自治体が多いです。
- 世帯が一つの場合: 「平等割」の負担は1世帯分
- 世帯分離した場合: 「平等割」の負担が夫世帯・妻世帯の2世帯分になる
つまり、世帯を分けることで、この「平等割」が二重にかかり、世帯全体で見たときの合計保険料が上がってしまうのです。
家族手当・住宅手当の対象外になるリスクがある
前章で触れた会社の「家族手当」や「住宅手当」も、世帯分離によって受け取れなくなるリスクがあります。
会社の福利厚生のルールである就業規則には、手当の支給条件として「生計を同一にする家族」や「同一世帯の配偶者」といった文言が記載されていることが多いです。住民票の上で世帯を分けてしまうと、この「同一世帯」という条件から外れてしまいます。
たとえ夫婦として同じ家で生活していても、公的な書類上は「別世帯」と見なされ、手当の支給が停止されてしまう可能性があるのです。
役所手続きの際に「委任状」が必要になり手間が増える
日常生活で地味に不便を感じるのが、役所での手続きです。夫婦で同じ世帯であれば、どちらか一方が代表して、家族全員分の住民票の写しを取得するなど、スムーズに手続きできることがほとんどです。
しかし、世帯分離をすると、法的には「同じ住所に住む他人」と同じ扱いになります。そのため、例えば夫が妻の住民票の写しを取得したい場合に、原則として妻からの「委任状」がなければ手続きができなくなってしまうのです。
【ケース別】世帯主の決め方と申請時の注意点
最後に具体的な世帯主の手続きを、3つのケースに分けて紹介します。
どのケースでも、手続きは市区町村の役所の窓口です。必要なものを事前にチェックして、新生活をスムーズにスタートさせましょう。
ケース1:新婚で同居を始める場合
結婚と同時に新居で二人暮らしを始める場合、手続きは比較的シンプルです。
新しい住所の役所で「転入届」(他の市区町村からの引越し)または「転居届」(同じ市区町村内での引越し)を提出します。この届出用紙に、新しい世帯の世帯主を記入する欄があります。
事前に夫婦で話し合い、会社の住宅手当の条件などを確認したうえで、決めた方の名前を世帯主として届け出れば手続きは完了です。
手続きの名称
- 転入届/転居届
タイミング
- 新しい住所に住み始めてから14日以内
主な持ち物
- 本人確認書類(免許証など)
- 転出証明書(市外からの場合)
- マイナンバーカード
ケース2:すでに同棲している場合(世帯合併)
結婚前から同棲していて、お互いが世帯主として別々の住民票を登録しているカップルも多いでしょう。この場合、結婚を機に一つの世帯にまとめる「世帯合併」の手続きが必要です。
役所の窓口で「住民異動届」の用紙をもらい、「世帯合併」の項目にチェックを入れて提出します。この際に、どちらを新しい世帯主にするかを決めて記入します。手続きを忘れていると、年末調整などで会社から確認の連絡が来る場合もあるので、婚姻届の提出と併せて忘れずに行いましょう。
手続きの名称
- 住民異動届(世帯合併)
タイミング
- 結婚など事実が発生した日から14日以内
主な持ち物
- 本人確認書類(免許証など)
- 国民健康保険証(加入者の場合)
世帯主を後から変更する手続き(世帯変更届)
「一度決めた世帯主はもう変えられないの?」と思うかもしれませんが、後から変更することも可能です。
例えば、妻が転職して住宅手当が手厚くなった、あるいは夫が独立して国民健康保険に切り替わったなど、ライフスタイルの変化に応じて世帯主を見直したい場合に行います。
この手続きは「世帯変更届」といい、これまで世帯主だった人から新しい世帯主へ代表者を変更する届け出です。こちらも「住民異動届」の用紙を使って手続きを行います。
手続きの名称
- 世帯変更届(住民異動届)
タイミング
- 変更があった日から14日以内
主な持ち物
- 本人確認書類(免許証など)
- 国民健康保険証(加入者の場合)
まとめ
「世帯主」はあくまで住民票上の代表者であり、税金の「扶養」とは全くの別物です。そのため、共働きで夫婦それぞれが社会保険に加入している場合、世帯主をどちらにしても、税金や社会保険料で損をすることは基本的にありません。
ただし、会社の「住宅手当」や「家族手当」は確認が必要です。これらの福利厚生は、会社によって支給条件が異なります。夫婦それぞれの就業規則を確認し、より有利な条件の方を世帯主にするのが合理的です。
また、「世帯分離」は国民健康保険料の増加や手当の対象外となるリスクがあり、基本的にはおすすめできません。
この記事を参考に、夫婦でしっかり話し合い、納得のいく形で新生活の第一歩を踏み出してください。
